スナック2008
世田谷は上町。焼肉くって上機嫌のぼくら。
「カラオケしたいね。」
「なんかボックスじゃなくて、スナックな気分じゃないっすか?」
「わかるわー、いいねースナック」
といった、かるーい気持ちで、
おかあさんがひとりで切り盛りする場末感たっぷりのザ・スナックに潜入したのでありました。
お客さんは、
●穴掘りが仕事のオジサン4人組
●30代女性ふたりとそのお祖母ちゃん(推定85歳)
30代先輩とおれ。カウンターに通される。
●明日早いから〜、といいながら歌い続ける「穴掘り職人」
●昭和歌謡でうめつくされた「カラオケ画面の予約表示」
●棚に並んだボトルキープは、オール「JINRO」
●女性ふたりが完璧な振り付けで歌いきる「ピンクレディ・メドレー」
●ちぢこめた腕を小刻みに震わせるおばあちゃんの「独特のダンス」
ボクの背中で繰り広げられている異質な世界。
そのすべてがここ「ふれんど(スナックの名称)」の日常なのだ。
完全アウェーである。バーレーンなんて比じゃねえくらいの。
「う、うたえねえ。とてもじゃねえけど」
とりあえずウイスキー水割りで様子をみる。
「はじめてでしょ?」とおかあさん。「(はじめて)っす」
「今日は水曜だからサービスね」と手渡されたのは「カラオケチケット(5枚つづり)」
・・・きたぞ。どうする、おれ。このサービス、無にできねえ。
とりあえずあのカラオケ店にある分厚い本で「いけそうな唄」を探すしかねえ。
あれ?なくねえ?分厚い本、なくねえ?
必殺「曲名をチケットに書いておかあさんに渡す方式」である。
「おにいさん、何、歌います?」
教えて!ぎゃくに教えて!
若者らしく、
ウルフルズ?(はじけすぎか?っていうかそもそも知らねえか?)
ブルーハーツ?(おばあちゃん、死ぬかも?)
無難にサザン?(これはありそうだけど、正解か?)
ここで「weeeek」歌いきったらそれはそれでスゴイな(でも、ジャニーズ絶対無理!)
思い出せ!必ず正解があるはずだ。
小学生の頃、だいすきだった「ベストテン」を頼りに、ベストな答えを探すおれ。
そのせつな、チケットに「TOKIO」の5文字をしたためる先輩。おかあさんに渡す先輩。
TOKIO・・・あり・・・のような気もする。そのノリのいい感じ、そしてジュリー。
あー先輩、それ、あるよ。
そして「TOKIO」の文字が画面に現れた。
流れる前奏。こわばる表情。
「まーちがとぶ♪(ひゅーひゅー)←おれ」
いつもよりやや勢いをつけて歌う先輩。もりあげる後輩。
歌い終わる先輩。
カウンターに戻ってくる先輩。
・・・ややウケだ。
ここのカラオケ機は「点数」の評価は出ない。
でもボクたちはすげー気にしていた。
「ふれんど」たちによる評価を。
「68点くらいかな」
「っすね」
とにもかく、先輩は歌いきった。よくやった。68点(自己評価)なら上出来じゃないか。
おれもやってやる!そして先輩を超えてみせる!
腹は決まった。
おれのなかでのベストアンサー。
ふれんどたちへのアンサーソング。
そのカラオケチケットは、テスト用紙に見えた。(名コピー)
問題用紙の空欄に、書き込んだおれの答えは・・・
テスト用紙を先生(注:スナックのママです)に提出するおれ。
答えに目を落とす先生(注:スナックのママです)。
「先生、おれの答えは!?あってる!?どうなの〜?先〜〜生〜〜〜〜!!」(心の声)
先生の首が縦にうごいた。わずかに。ほんの小さく。
先生がうなずいた。
先生がちょっと微笑んだ。
『北酒場』
北の酒場通りには
ながい 髪の女が似合う
ちょっと お人よしがいい
くどかれ 上手なほうがいい
今夜の恋は 煙草の先に 火をつけてくれた女性
からめた指が 定めのように 心を許す
北の酒場通りには 女を酔わせる恋がある
(ぼくには、見えたんだ。赤々と「90点」を伝えるデジタルの文字が。うっすらと、でもはっきりと。)